任天堂は、倒れたままなのか?

ポケモンGOが大変流行っており、ついに日本のゲーム業界が世界的にヒットするスマートフォンゲームをリリースしたかのように思える。しかし実態はそうでない。ポケモンGOにより任天堂は本格的にIP管理会社としての道を着実に歩み始めた。

そもそもポケモンGOの開発・販売は任天堂でなくNianticという法人が行っており、任天堂は同社の株を10%程度しか保有していない(2016年7月時点)。このため、任天堂の株価はポケモンGOリリース時に急騰したが、その後下落した。つまり任天堂は、インターネット上でのゲーム配信プラットフォーム(STEAMのような)を取ることを放棄したばかりか、スマートフォンゲーム開発の為の組織を作ることも放棄したと取れる。

私は数カ月前、任天堂の社員と「今後任天堂はどのような戦略を取っていくべきか」というテーマで語り合った。私は「ゲームコンソールに依存し続けるべきではない。まずはスマートフォンプラットフォームでゲームを開発・販売できる体制を整え、並行してSTEAMのような配信プラットフォームを作る。そうやって任天堂はインターネット上のプラットフォームを握るべきだ」という意見をした。しかし実際は、任天堂は自社のプラットフォームを作らず、版権をライセンスする道を選んだ。これは、任天堂が自社だけではプラットフォームを作りきれないという弱さを露呈したものと私は考える。任天堂は弱くなった。

注:ポケモンは株式会社ポケモンの著作物であり、任天堂は同社の株を1/3程度しか保有していないが、任天堂がポケモンに初期から現在まで多大な影響力を有していることを考慮し、この記事では主語を任天堂として記載した。

フィンテックはタックスヘイブンの夢を見るか

ビットコイン等の仮想通貨(以下、単に「ビットコイン」)によるフィンテックビジネスが大きく成長している。その一方、ビットコインによる投資ビジネスも盛んとなっている。以前はビットコインその物への投資が多かった。これは、単純に将来の値上がりを予想したものだ。しかしその通貨がそれなりに流通してくると、価格の上昇が緩やかとなり収益は減少する。

そこで最近は、ビットコインを用いて投資するビジネスが増えている。パターンはいくつかあるが、基本的にはビットコインによって何かの金融商品や事業に投資をし、配当はビットコインで受け取る形だ。大量のビットコインが必要になるので、運営者はファンドを設立することになる。

これだけ聞くと、現存通貨(例えば日本円)を投資家から集めてファンドを作って運用し、配当を支払うのと何ら変わらない。現存通貨のそれとの最大の違いは、「出資及び配当に関する法規制がない」ということだ。これを投資家向けに言い換えると、「資金の流れが当局にバレませんよ」「配当に税金がかかりませんよ」となる。こうなると飛びつかない理由はない。

このように、ビットコインとテクノロジーを組み合わせることによって、サイバー空間にタックスヘイブンが作り出せる。もちろん当局も馬鹿ではないので、このような税金逃れを防ぐために順次法律を制定している。日本でもビットコインの扱いに関する法案が成立した。今後投資を規制する法律も成立するだろう。

しかし法律は基本的にその国でしか機能しないので、規制がない国に組織を移転されると抑止できない。これは、タックスヘイブン国家に対して他国が干渉できないのと同種の構造である。

加えて、大企業や富裕層は過度の規制に反対するだろう。彼らはタックスヘイブンの存在を求めているからだ。もちろん彼らは正直にそんなことを言うはずもなく、代わりに「プライバシーの侵害」「国民の財産が国家に管理される」「ビットコインに依存し過ぎるといずれ処理しきれなくなる」等のレトリックで理論武装するだろう(実際にそれを主張するのはロビイストだ)。そして多くの個人事業主や中小企業のオーナーもこの意見に乗るだろう。「当局に知られない資産」に彼らが並々ならぬ興味を示すことは、社会人経験のある者なら容易に想像できる。

上記のような理由で、国家公認の仮想通貨ができる未来は来ないかもしれない。BlockStream 等の試みによって仮想通貨の普及率は上がるだろうが、最終的にはそのほとんどはデリバティブに使われるようになる可能性がある(参考:2015年12月時点の割合)。

リーガルテックにおいては、中央集権システムのとの組み合わせで国家公認の公平なシステムが構築できる。しかしフィンテックにおいては、ビットコインを用いたタックスヘイブンの運営が最大のビジネスになる可能性がある。フィンテックによって、大きな価値が世の中に新たに生まれているが、その果実のほとんどは富裕層が最終的に独占するのかもしれない。

なぜスタートアップは日本に集まらないのか

Paul Grahamが書いたエッセイに、「なぜスタートアップはアメリカに集まるのか非公式邦訳)」というものがある。ここには「アメリカはこうしているからスタートアップは集まる」という理由が列挙されているが、特に雇用や労働に関する指摘が印象的だった。以下、いくつかについてタイトルを抜粋し、日本の現状と対比する。

5. You Can Fire People in America.

日本は雇用規制が強く、大企業では会社の倒産が迫るほど経営が行き詰まらない限り、解雇ができない。追い出し部屋やいじめ、(特に中小企業やスタートアップで起こりうる)法令を無視した解雇は存在するが、いずれも非公式・違法なものであり、「それができるから日本は解雇が自由にできる」と胸を張って主張できるものではない。それだけ解雇は「あり得ないもの」として扱われており、解雇しただけで会社のイメージが落ちる。金銭に余裕のないスタートアップにとって、生産性の低い人員を解雇できないというのは致命的である。

6. In America Work Is Less Identified with Employment.

先ほどの意見と共通するところがあるが、日本人のほとんどは「同じ会社で長く働く」ことが良いと思っている。一般的に転職すると給与は下がるし、若いうちに3年程度で転職を繰り返しているとネガティブに捉えられる。従って、「自分の力を最も活かせる場所で挑戦したい」と考えている優秀な人々も、独立に踏み出せなかったりする。大企業に勤めている場合、この傾向は顕著だ。初期のスタートアップは人材が全てであるが、現状では多くの優秀な人材が企業で腕を鈍らせている。

10. America Has Dynamic Typing for Careers.

アメリカは職種が決まるまでの期間が長く、30歳から大学に入り直して職種を変更するのも普通だ。これに対し、日本は新卒一括採用なので、大学に入る時点でかなり職種は制限される。一応、文系がプログラマとして採用されたり、理系が営業職についたりする事例もあるが、それでも新卒(22歳)の段階で職種はほとんど確定する。仮にその職が向いていなくても、(大企業でもない限り)職種を変更すること自体が難しいので、結果として全体の生産性は下がる。これは働く企業のサイズに関しても同じことが言え、一度大企業に入ってしまったら、中小企業やスタートアップに転職するメリットは少ないし、逆はそもそもできない。このようにキャリアが厳しく制限されているので、当人が最も適正がある場所で働ける可能性が低くなり、当然スタートアップにもそれに適した人員が行きにくくなる。

この他には「気質」の違いが指摘されている。アメリカ人は起業家精神があるからスタートアップが多いとはよく言われる。しかしこれには著者は疑問を呈しており、「単に事例が少ないだけだ」と述べている。アメリカには起業に消極的だったり、野心はあるが考えが浅かったりした若者が周囲の支援によって世界企業を作り上げる経営者にまで育った事例が数多くある。近年の日本にはそういう事例がほとんどない。経営者に支援するより、大企業や既に成功している人に便乗しようとする傾向が強いからだ。そして日本ではスタートアップ経営者がとにかく尊敬されず、精神的にも経営者というキャリアを選びにくい。もちろんアメリカの全てのスタートアップ経営者が尊敬されているわけではないが、日本ではほとんどのスタートアップ経営者が尊敬されていない。結果としてアメリカより受けられる支援の量は物心ともに減る。

松下幸之助は、かつて成功の秘訣を聞かれた際に、「成功するまで諦めずに続けること」という趣旨の回答をした。諦めずに続ければ全員が成功するわけではないが、諦めずに続けようと前向きに思う人が多ければ成功者の数も増えるだろう。残念ながら今の日本はそういう環境ではない。もし政府がスタートアップを促進したいのであれば、雇用規制を緩和し、人々のキャリアに対する考えを変えるところから始めなければならない。

BlockStreamはなぜ画期的か

BlockStream がシリーズAで5500万ドル(約60億円)調達した。これにはデジタルガレージも参加している。記事にある通り、Blockstream は「サイドチェーン」というオープンプラットフォーム技術を開発している。これはビットコインを中心とした、ブロックチェーン関連サービスを統合する技術だ。その概念図は以下の通り。

2016年5月現在においては、特にビットコインのペッグ機能が強調されている(論文及び動画がそれに詳しい)。これがどう画期的なのか、具体例を交えて説明する。
(注:手数料及び経過時間はわかりやすくするためにあえて具体的な値を記載している。現在又は将来の技術水準でこれらの値が実現できると主張するものではない)

BlockStream がない場合

『今、矢澤さんと西木野さんという二人の人がいる。矢澤さんはビットコインを保有しており、西木野さんはイーサリアム(仮想通貨の一種)を保有している。二人共他の仮想通貨は持っていない。西木野さんは矢澤さんにピアノを弾いてあげる約束をしており、矢澤さんはそれに対し100ビットコインの謝礼を渡すつもりである。ビットコインとイーサリアムは互換性がないので、そのままでは渡せない。そこで、矢澤さんは一度イーサリアムを日本円に変換し、さらに日本円をイーサリアムに変換して西木野さんのウォレットに振り込んだ。当初用意していた額は100ビットコインだったが、仮想通貨と現実通貨間の変換コストは高いので、最終的に渡せた金額は90ビットコイン相当のイーサリアムとなった。仮想通貨と日本円間の変換は手間がかかる。それを二回行ったので、変換のやり方を調べる時間も含め送金完了まで1時間かかった。』

BlockStream がある場合

『前述の例と同様、矢澤さんはそれに対し100ビットコインの謝礼を渡すつもりである。ビットコインとイーサリアムは共にサイドチェーンに変換できるので、矢澤さんはまず手持ちのビットコインをサイドチェーンに変換し、西木野さんに転送する。受領を確認した後、西木野さんはサイドチェーンをイーサリアムに変換した。当初用意していた額は100ビットコインで、仮想通貨と現実通貨間の変換コストは安いので、最終的に渡せた金額は99ビットコイン相当のイーサリアムになった。サイドチェーンは他の仮想通貨に容易に変換できるので、変換のやり方をいちいち調べる必要はなく、1分で送金が完了した。』

上記二つを見比べればわかる通り、サービスの本質は単純で、「より易しく、より安く、より早く決済が行える」ことである。先ほどの図にある通り、将来的にはサイドチェーンの内部で契約や権利登記を行えるようにする構想をBlockStream は持っている。あらゆる財産権の管理及び移転を統合することがBlockStream のひとまずの目標であろう。