XRPに対するRipple社の真意

XRPが2017年5月になって急に数十倍に急騰しました。億万長者が何十人か生まれましたね。XRPの時価総額もBitcoinに次ぐ2番手となり、目が離せない人も多いでしょう。では、リップル社及びXRPとはなんであり、この二つにはどういう関係があるのでしょうか。

リップル社とXRPの関係については、こちらのブログがとても詳しいです。

ただ、僕はこちらの指摘は100%正しいとも思ってないです。「リップルが恣意的にコントロール可能」というのは事実ですが、それが「XRPは投資価値がない」ということに必ずしも結びつかないからです。他の人が別の場所で意見していた覚えがありますが、例えばJPYとUSDをXRPを介して交換する場合、

1. JPYを売りXRPを買う
2. XRPを相手方に送る
3. XRPを売りUSDを買う

という流れで、1〜2の段階でXRPを一時的にユーザは保有しなければならないからです。つまり、このタイミングで実需が生じているということであり、将来XRPでの送金がデファクトスタンダードになり膨大な額が交換された場合(為替市場の取引高は1日で200兆円とも言われています)、莫大なXRPの実需が生じる可能性があるからです(一瞬で200兆円注文されるわけではないので、正確な評価は難しいですが)。

もっとも、「リップル社がコントロール可能」というのは事実なので(どのぐらいまでそれが可能かは計算がとても難しいですが)、Volatilityが非常に大きくてハイリスクハイリターンな通貨であることは間違いないと思います。

ところで、WikipediaのRippleの項目には以下のように書かれています。
>[英語ウィキペディア]designed to eliminate bitcoin’s reliance on centralized exchanges, use less electricity than bitcoin, and perform transactions much more quickly than bitcoin

これは非常に政治的な記述です。僕個人の意見は以下です。

bitcoin: 技術自体はdecentralize, しかし実際の取引においては取引所に頼らないと安定した取引はできないので、取引権の偏りという点ではcentralizeと評価もできる。

ripple: XRPはcentalize, しかしリップル社が60%程度現在も保有しており、同社はそれを任意のタイミングで売れるので、供給・価格コントロール権の偏りという意味ではcentralizeと評価できる。これは、bitcoinの取引権の偏りよりずっと大きな偏りである。そして、XRPはゲートウェイという交換ようの板をサードパーティが立てられ、これも取引所のようなものなので、取引権の偏りという点でもcentralizeである。さらに、承認プロトコルも、Proof of WorkでもProof of Stakeでもなく、リップル社が任意に選んだvalidator というサーバの投票で決まるので、取引承認権という点でもcentralizeである。

要は、Wikipediaの記述は非常にリップル社よりの政治的なもので、XRPの方が実際はずっとcentralizeです。リップル社もこれには気づいていて触れないようにしています。

a. リップル社のプロダクトは銀行間でのグローバルかつボーダレスな両替を実現するものであり、彼らのビジネスでの収益限は銀行に対するシステムのコンサルティングや設計・実装である
b. リップル社はリップルの供給(特に増やす方向)をコントロールすることができる

という二つの事実から、リップル社はXRPに対してこう考えているのでしょう。「もしXRPが上がったら、自分たちの保有しているXRPを売却して収益をあげれば良い。暴落した場合でも、もともとほぼコスト0でXRPを保有できているのだから、特に損はしない」。つまり、a と b の収益モデルは、相互にそれほど関係していないわけです。最初のブログでも述べられている通り、XRPとリップル社株式の相関性は(2017年5月時点の市場参加者に想像されているほどには)ないのでしょう。

ブロックチェーンはバブルである

ビットコイン等の仮想通貨の根幹技術であるブロックチェーンが今注目されている。確かにビットコインは極めて有用な技術であり、非効率的な既存の金融サービスを劇的に改善するだろう。その根幹技術であるブロックチェーンも、BlockStreamをはじめ様々な応用例がアカデミック・ビジネスの両方から提示されている。

しかし私は、現状のブロックチェーンの盛り上がりはバブルと見ている。多くの人が過度な期待を抱いているからだ。

第一に、貨幣以外の財産について、ブロックチェーンは自律的に自己の正当性を証明できない。これは致命的な欠点であり、「ブロックチェーンで全ての財産権が適切に処理できる」という考えに対する単純な反証である。

第二に、ブロックチェーンを用いたシステムはいずれ容量の問題に達する。これはプライベート・チェーンを用いる等、分散度合いを限定するという回避方法はある。しかしこの記事が言う通り、この手の限定した分散ネットワークにはCDN等様々な既存技術があり、ブロックチェーンに置き換えた方がよい領域はそれほど多くない。

第三に、ビットコイン等仮想通貨に限定して言えば、国家はそれを野放しにしておくことは好まないだろう。それを許せば、タックスヘイブンがいくらでも作れてしまう国家公認の仮想通貨が生まれる可能性もあるが、その場合国家が中央組織としての役割をある程度果たさざるを得ない。もちろんブロックチェーンの定義を拡張したり、解釈によってそれもブロックチェーンに含ませることもできるだろうが、それは単なる言葉遊びだ。

ブロックチェーンは間違いなく有用だ。だが、往々にしてこのようなフレーズは一人歩きし、定義が肥大化し、そこに有り余った大量のカネが流れこむ。今のうち予言しておくと、マウントゴックスのような経営破綻や詐欺による未払いは今後も何度か起こるだろう(海外では既に幾つも未払いが発生してる)。多くの人に対して真に有用なブロックチェーンサービスは1割程度しか産まれず、後は全て淘汰されるだろう。もっともそれがベンチャーであると言い切ってしまえば、反論しがたいところではあるが。

フィンテックはタックスヘイブンの夢を見るか

ビットコイン等の仮想通貨(以下、単に「ビットコイン」)によるフィンテックビジネスが大きく成長している。その一方、ビットコインによる投資ビジネスも盛んとなっている。以前はビットコインその物への投資が多かった。これは、単純に将来の値上がりを予想したものだ。しかしその通貨がそれなりに流通してくると、価格の上昇が緩やかとなり収益は減少する。

そこで最近は、ビットコインを用いて投資するビジネスが増えている。パターンはいくつかあるが、基本的にはビットコインによって何かの金融商品や事業に投資をし、配当はビットコインで受け取る形だ。大量のビットコインが必要になるので、運営者はファンドを設立することになる。

これだけ聞くと、現存通貨(例えば日本円)を投資家から集めてファンドを作って運用し、配当を支払うのと何ら変わらない。現存通貨のそれとの最大の違いは、「出資及び配当に関する法規制がない」ということだ。これを投資家向けに言い換えると、「資金の流れが当局にバレませんよ」「配当に税金がかかりませんよ」となる。こうなると飛びつかない理由はない。

このように、ビットコインとテクノロジーを組み合わせることによって、サイバー空間にタックスヘイブンが作り出せる。もちろん当局も馬鹿ではないので、このような税金逃れを防ぐために順次法律を制定している。日本でもビットコインの扱いに関する法案が成立した。今後投資を規制する法律も成立するだろう。

しかし法律は基本的にその国でしか機能しないので、規制がない国に組織を移転されると抑止できない。これは、タックスヘイブン国家に対して他国が干渉できないのと同種の構造である。

加えて、大企業や富裕層は過度の規制に反対するだろう。彼らはタックスヘイブンの存在を求めているからだ。もちろん彼らは正直にそんなことを言うはずもなく、代わりに「プライバシーの侵害」「国民の財産が国家に管理される」「ビットコインに依存し過ぎるといずれ処理しきれなくなる」等のレトリックで理論武装するだろう(実際にそれを主張するのはロビイストだ)。そして多くの個人事業主や中小企業のオーナーもこの意見に乗るだろう。「当局に知られない資産」に彼らが並々ならぬ興味を示すことは、社会人経験のある者なら容易に想像できる。

上記のような理由で、国家公認の仮想通貨ができる未来は来ないかもしれない。BlockStream 等の試みによって仮想通貨の普及率は上がるだろうが、最終的にはそのほとんどはデリバティブに使われるようになる可能性がある(参考:2015年12月時点の割合)。

リーガルテックにおいては、中央集権システムのとの組み合わせで国家公認の公平なシステムが構築できる。しかしフィンテックにおいては、ビットコインを用いたタックスヘイブンの運営が最大のビジネスになる可能性がある。フィンテックによって、大きな価値が世の中に新たに生まれているが、その果実のほとんどは富裕層が最終的に独占するのかもしれない。

分散型ネットワークと中央集権

ブロックチェーンの本質は、分散型ネットワークによる中央集権の否定である。財産権を中央集権なしに機能させることは可能だろうか。その答えを出す前に、まずは以下の問いを1分程考えてみてほしい。

問1
著作権をブロックチェーンで管理することを考える。ブロックチェーンを用いたシステムBにおいて、著作物Cの著作権を甲から乙に譲渡するトランザクションTが行われたとする。Tが正当な取引であることを、Bのみを用いて証明できるか。

Tはなりすましかもしれないし、詐欺の可能性もある。なりすましを防ぐ為には、電子認証を用いる等の手がある。詐欺を防ぐ為には、第三者がTの正当性を保証する仕組みを実装すればいい。そうなるとこれは実現可能なように思える。しかし答えを出す前に、以下の問いも考えてみよう。

問2
甲が新規に創作した著作物Nをブロックチェーンを用いたシステムBに登録Rをした。当該登録の正当性を、Bのみを用いて証明できるか。

これは不可能である。BにとってNは新規の存在であり、その帰属を示す情報がないからだ。それを判断する為には、甲が他に創作した作品との類似性や、甲の知人等からの聞き取りによって、人の目で近似的な判断をするしかない。問2ができることが問1の前提になっているので、問2ができない以上問1もできないという回答となる。

ビットコインがそれを制御するシステム自体において正当性を証明できるからと言って、いかなる財産権でもそれができると錯覚してはいけない。ビットコインはシステム自体が財産権を生み出せるという、例外的な場合だからだ。

ではどうやってブロックチェーンで著作権を管理するか。ここで国家の出番となる。上記のTやRについて異議が唱えられた場合、裁判でその正当性を判定すればいい。裁判沙汰を避けたいのであれば、TやRに証拠として身分証や登記等の付帯情報をつけて証明力を高めればよく、これらは行政が発行したものである。このように国家権力によるお墨付きを得られれば、Bは有効に機能する。Bの開発者の役目は、正当性をそれ自体で完全に証明することでなく、高い確率で正当であることを保証し、なりすましや詐欺に対するインセンティブを極小化することである。これらは既存の技術で対処可能だ。

現金を除いた財産権に関しても、上記の著作権と同様に、実際に機能する為には国家の保証が必要であり、それは財産権が国家の暴力を背景として安定していることに対応する。そして実は現金も最終的には国家の保証を必要とする。ビットコイン等の仮想通貨は、国際金融のトリレンマのうち、「為替相場の安定」を満たせない。その為、ドル等の発行数が多い現存通貨に比べて価格が不安定となりがちで、日常的な取引に使うのは難しい。これを解決するには、国家が仮想通貨を発行するしかなく、未来において遠からずそうなると私は予想している。以上のことから、現金を含めた全ての財産権において、中央集権的主体である国家の保証があって初めて現実的に機能することがわかる。ブロックチェーンがあってもそれは変わらないということだ。

ブロックチェーン自体は既存の枯れた技術の組み合わせであり、技術的新規性は薄い。そしてその社会への影響に関しても中央集権を締め出す程の「革命的」なものではない。人工知能と同じく、ブロックチェーンも実際の可能性以上に盛られて語られることが多い。今の人工知能が究極の疑問の答えを教えてくれる見込みがないのと同様、ブロックチェーンが全ての財産権のあり方を覆す見込みもない。ブロックチェーンが有用な技術ではあるのは間違いないので、これからは何が可能で何が不可能なのかを冷静に考えていかなければならない。